6歳に戻ったグリーンに皆がポケモン教えたい話
※原作との矛盾がありますがあまり深く考えずにお読みください。
******
シロガネ山。
僕がこの山に来てからもう随分経つ。
ほとんどの時間を一人で過ごしていたが、グリーンが押し付けてきたポケギアのおかげで時々いろんな人とやり取りをするようになった。
とはいっても、ほとんどが身内だ。
今日はあまり吹雪いておらず、手持ちのポケモンたちは雪遊びをしている。雪に飽きたらしいピカチュウがこちらに近寄ってきたのでしゃがんでやると、器用に肩に乗ってきた。
プルルル───
ポケギアの呼び出し音がしたので確認してみると、どうやらオーキド博士からの電話のようだ。
『レッド!! 大変じゃ! グリーンが大変なことになっとるんじゃ! とにかくすぐにマサラタウンの研究所まで来とくれー!』
一方的にまくしたてられ切られてしまった。
果たしてオーキドは何を伝えたかったのか。皆目見当つかないが、グリーンがどうのと言っていたのでグリーンがまた何か黒歴史でも生み出してるのかもしれない。
面白そうなので行ってみることにした。
***
マサラタウンにある研究所の前まで来ると、そこで思わぬ人物と出くわした。
「あれっレッドやん」
ポケモンあずかりシステムを作った有名なポケモンマニア、マサキだ。向こうも予想外だったらしく目を丸くしている。
「珍しいな。あ、博士に呼び出されたんやろ。笑いごとちゃうのにあの人絶対この状況楽しんどるわー」
そう言いつつもマサキもいたずらっ子のように笑っていた。
そうとうグリーンが面白いことになっているらしい。期待は募るばかりだ。
扉を開けて中に入るマサキに続くと、奥から子どもの声が聞こえてきた。
「はーなーせー!! はなしやがれ!!」
「これこれ暴れるんじゃない」
そこには。
グリーンによく似た六歳かそこらの少年が博士の腕の中で大暴れしていた。大暴れどころか腕に噛み付いている。それなのに満更でもなさそうなオーキドにレッドはドン引きした。
「え、それ、グリーン?」
「お、よう本人やって分かったなあ。生き別れの弟かもしれへんで」
「グリーンが大変なことになってるって聞いてたので」
「そない雑な説明されとったん」
腕を噛んでいたグリーンの口を外し、オーキドはレッドに向き直ると、実に良い笑顔で挨拶をしてきた。
「よく来てくれたのぅレッドよ。お察しの通り大変なことになってしまったんじゃ」
「博士その顔全然説得力ないで」
オーキドが「この頃が一番かわいかった」とかなんとか、普段からその孫愛を少しでも本人に出してやればいいのに、というくらいに惚気始める。いや、物凄く暴れて反抗してるけど可愛いかこれ? 小さな子どもなら何しても可愛いく見えるんだろうか。レッドは疑問に思ったが心の中に留めることにした。
結局何故こんな面白い──いや、大変なことになっているのか。
いつまで経っても説明してくれないオーキドに、半分呆れをにじませつつマサキに目で問うと察して説明してくれた。
「いやぁさっきまでグリーンくんがハナダの家に遊びに来てくれとったんやけどな、何やいろいろ盛り上がってもうて。ポケモン装置の機能で人が移動できるかみたいな実験したら転送先で子どもになってしもうててん」
「は?」
「これ上手く開発すれば賞とれるかもしれへんな。──いや冗談やって、そう睨まんといてや。多分もう一度逆転送すれば元にもどる思うけど、グリーンくん記憶も六歳の頃に遡ってしもたみたいでなぁ。全く言うこと聞いてくれへんらしくて、わいもこっちまで来たゆうわけや」
「はぁ」
「遊び疲れさせるしかないわ」
僕もあまり人のこと言える立場じゃないが好奇心旺盛すぎるだろう。黒歴史には違いないようだ。
暴れ疲れて少しおとなしくなったグリーンがこちらに気付いて、ぱっと目を輝かせた。
「あっマサキ!」
「え、覚えてくれとったん? 嬉しいわぁ」
そういえば小さい頃よくマサキに遊んでもらっていたのだと聞いたことがある。研究所にある機械はいくつかマサキが関わっているらしく、オーキドに連れられてマサキの家に行くこともあったとか。
六歳のグリーンは笑顔でぶんぶん手を振っている。
「マサキじゃん! ⋯⋯あれ、なんかふけた?」
「う、なんやろ地味にショックや⋯⋯」
「マサキじいちゃん!」
「やめてくれぇぇぇわいはまだ若いんやぁぁぁ」
じーっとマサキを見つめて言葉のナイフをぐっさり刺したグリーンは思い出したかのように憤慨し始めた。
「きいてくれよ! そとにいきたいのに、じーちゃんがはなしてくれないんだ。きょうはレッドとやくそくしてるのに!」
思わぬところで自分の名前が出てしまった。
うなだれていたマサキがばっと顔をあげにっこり笑って、
「レッドくんならここにおるでー」
と、自分以外の犠牲者を作りにかかってきた。
仕方ないのでグリーンの傍に行き目線を合わせてやる。
「約束なんてしてたっけ?」
「だ、だれだよてめー! かってに入ってくんなよ!」
見知らぬ人物に怯えたようで、オーキドの腕を掴んでいた手にぎゅっと力がはいった。自分にだけ敵意の目を向けられる、という状況は非常に面白くない。するとグリーンがはた、と何かに気付いたようだ。
「あれ? それレッドがつけてたバッジ⋯⋯なんでおまえがもってんの?」
「⋯⋯⋯⋯レッドくんから貰ったんだ」
「うそだ! あいつそれだいじにしてた! レッドになにしたんだよ!」
本人なんだけどなぁ。
怯えながらも挑むような目つきに、大人げなくも悪戯心が沸いてきた。
「君のお友達のレッドくんはね、美味しそうだったから僕が食べちゃった」
「な⋯⋯!!!?」
「このバッジはその時に手に入れたんだ」
「⋯⋯⋯⋯っ!!!」
「嘘だよ」
「⋯⋯⋯⋯!!?」
「──孫にトラウマを植え付けて遊ぶのはやめてくれないかのぅ」
プルルル───
デスクから恐らくグリーンのものであろうポケギアが鳴っている。テレビ電話型の最新式だ。放っておくのも可哀そうなので出てみた。ジムトレーナーからかもしれない。
「グリーンさんこんにちはー! またバトルしたいです! 日曜の夜──あれ、レッドさん? 間違えた? 私レッドさんの番号知ってたっけ?」
画面に映った少女はコトネだった。
説明するのも面倒だったので無言でグリーンの方へポケギアを向けると、彼女は悲鳴をあげた。
「きゃー!! えっえっグリーンさんの子ども!? なわけないか、弟さん? かわいー! ずるいです! オーキド博士の研究所ですね! 私もそっちいきますね!」
そう言って通話は切られた。
面倒くさい事態にしてしまった気がする。オーキドとマサキは勢いに呑まれて口を開けていた。
しばらくして十分も経たないうちにコトネはやってきた。いつものように後ろにマリルを連れて。
「やーだもーかわいーー!!」
オーキドを半ば突き飛ばす形でグリーンに抱き着く。
ぐえ、とグリーンのうめき声が聞こえた。
「な、なにすんだよ!」
「なにすんだよだってー! かわいー!」
「うあ、やめろぉ⋯⋯」
「やめろぉだってー! かわいー!」
「コトネちゃん何言うてもかわいい言うんちゃうか」
髪ふわっふわー!と散々ぐりぐり可愛がった後、コトネはきらきらした目でこちらを見た。
「で、結局この子誰なんですか? グリーンさんの弟であってます?」
「本人」
「────え?」
「グリーン本人」
主にマサキが今までの経緯を説明する。
先ほどのテンションはどこへやら、黙って聞いていたコトネはだんだん顔を青くしていった。
「え、あの、元に戻った時って記憶引き継がれますか──?」
「うーん、分からんけど大丈夫とちゃうかなぁ。覚えてたとしてもうっすら昔そんなことあったような気がするって程度やと思うで。知らんけど」
「じゃあいっか!」
急に笑顔に戻った。コロコロ表情が変わる子だ。グリーンが可愛がるのも分かる気がする。まぁあいつはそもそも後輩って存在が好きなんだろうけど。
子どもに似つかわしくないげっそりとした顔で放心していたグリーンは、何かを見つけて目を丸くした。そして部屋の隅で腰を押さえてうずくまっているオーキドの元へ駆け寄り白衣を引っ張る。
「なぁじーちゃん、あのあおくてまるいのなんだ?」
コトネのマリルを指さして無邪気に尋ねる。
あーあれはのぅポケモンと言って──オーキドがそう解説しようとしたところを、コトネが大声で遮った。
「えっグリーンさんこの頃まだポケモン知らないんですか!?」
正直僕も驚いていた。確かにマサラタウンは深刻な過疎化故にポケモンセンターも店もなく──家を持たない人もいるくらいだ──ポケモンの存在が遮断されている。唯一ポケモンのことを知れるのは研究所くらいだが、子どもの頃は入れてもらえなかった。数少ないテレビのチャンネルに映るドラマも人間しか出てこなかったし、パソコンの通信教育もまだ始めたばかりだろう。でもポケモン博士の孫なんだから、知っていてもおかしくないはずだ。
「まーあの時は研究も半ばじゃったからのぅ」
「変に知識いれるんはやめとこーいう話になったんでしたねぇ」
「ということは──」
「つまり──」
多分この瞬間、僕とコトネの思考はほとんど同じだったに違いない。
あの生意気に調子よく知識を披露して常に先回りしてたグリーンに僕がポケモンを教える──?
あのカントージム最強のクールでカッコいい先輩なグリーンさんに私がポケモンを教える──?
そんなレアな体験、絶対やりたいじゃないか。
「あれはのぅ、水ポケモンの──」
「ちょおっと待ったぁ!!」
説明しようとしたオーキドをまたもやコトネが遮った。
「私のポケモンなんですから、私が説明します!」
「いや幼馴染の僕が責任もって教える。図鑑制覇者が教える方が絶対いい」
「私だって図鑑制覇しましたぁ~! しかもジョウトとカントーですぅ~」
「カントージョウトとイッシュにアローラ」
「いつの間に!!?」
「せやったらわいも教えてあげたいわぁ」
「──あんたは既に経験済みだろ」
便乗してきたマサキをひと睨みすると、びくっとして「そないな表情もできるんやなぁ」と目を逸らした。
「だれでもいーから、さっさとおしえてくんない?」
大人の醜い争いを六歳児は半眼で眺めている。
コトネは言葉で争っても不毛と気付いたのか、モンスターボールを手に取った。
「レッドさん、今日こそ決着をつける日が来たみたいですね」
「本気の僕に勝てるとでも?」
応じるように僕もボールを取り出す。顎で表に出るよう促し、研究室の前でバトルが始まった。オーキドは鍛えまくったポケモンでバトルするならもっと広い場所でやれと注意したかったが、可視化できそうな二人の闘志に何も言えなかった。マサラタウンが荒れ地にならないことをただ祈るばかりである。
そんな二人の激しいバトルにグリーンは目を輝かせた。
「すっげー!!かっけぇー!!」
果たしてグリーンに初めてのポケモンを教えられるのは誰なのか───!
***
【マサキ編】
騒ぎを聞きつけたグリーンの姉であるナナミが、六歳児に戻ってしまった弟に隠れるようにしてマサキのところまでやって来た。
「マサキさん、これ」
ナナミがマサキに手渡したのは、薄緑色の瓶に入った炭酸水。
「あ、サイコソーダやないですか。グリーンくんに?」
「ええ、あの子これ好きだったから。私の代わりに渡して欲しいんです」
「別にええですけど⋯⋯話さんくてええのですか?」
みんな大はしゃぎやのに。そう尋ねると、ナナミは少し寂しそうに笑った。
「今のあの子が私を見たら、母と勘違いすると思うから⋯⋯」
「⋯⋯分かりました。僕がちゃんと渡しときますわ」
「ありがとう」
そそくさと家へ戻っていった。
「ええ姉さんやなぁ」
「うむ」
オーキドとマサキの間にしんみりとした空気が流れる。オーキドは研究の報告書がまだ残っているからと研究所に戻った。その目元に光るものがあったのを、マサキは気付かなかったふりをした。
「プテラ! つばめがえし!」
「メガニウム! ソーラービーム!」
対して二人のバトルは大いに白熱しとんでもなく長引いていた。お互い回復アイテムの縛りすらないために中々戦闘不能にもならない。
最初は大はしゃぎで応援していたグリーンは完全に飽きたようで、マサラタウンのその辺の石ころに名前をつける遊びを始めていた。
「あいつはゴロンゾーラだな⋯⋯」
「グリーンくん、はい。お姉さんからの差し入れやで」
「サンキューマサキ! これすきなんだよねー」
マサキから受け取ったラムネをぐびっと呷る。ぷはーと爽やかに息をはき、マサキの服をぐいぐいと引っ張った。
「ちょ、服伸びてまうやろ」
「なーなーマサキあれなんてポケモン? てかポケモンってなに? みずとか、ひとか、いろいろタイプがあんの?」
「お、さっきの博士の言葉とこのバトルでもうそこまで分かったん? 賢いなぁ」
頭を撫でてやるとグリーンは、オレはてんさいだからな! と得意げに笑った。
「ポケモンはな、まだまだ謎が多くて完璧な説明ゆうんはできひんけど、世界のいろんな場所に住んでいる不思議な生き物のことや」
二人が繰り出しているポケモンを指さす。
「あれはメガニウムであっちはプテラや。メガニウムは草タイプでな、葉っぱとか花とか使って攻撃すんねん。花からええ匂いするから後で嗅がしてもらうとええで! プテラは化石から復活させたポケモンやな!」
「へええ。やっぱマサキはものしりだな!」
最近実験に失敗するたびにグリーンから呆れと失望の目を向けられていたマサキは、子どもグリーンの純粋な尊敬の眼差しに胸が熱くなった。あの二人がどうしてバトルをしているのかも忘れて、ポケモン図鑑を見せながら教えてやる。
「でな、メガニウムはあんな立派やけど、最初の頃はこんな小さいポケモンやってんで。人間と違ってゆっくり大きくなるんやなくて、一気に成長すんねん」
「かわいーな! みためってすげーかわるんだ」
「他にも飛ぶやつ、泳ぐやつ、燃えるやつ──ってたくさんの種類がおんねんで。わいらはそれを研究しとんねん」
マサキの話を大人しく聞いていたグリーンは、ふと首を傾げた。
「オレらは?」
「え?」
「オレらはポケモンじゃねぇの?」
「まあ、ポケモンいうんはポケットサイズに小さくなるからポケモンいうわけやし、生物学上ではちゃうけど。いや、どうなんやろな。なんか哲学的やな。──じゃあそれはグリーンくんが大きくなったら研究してみ」
「わかった! オレじーちゃんにもマサキにもまけないケンキューシャってやつになるぜ!」
うわー今の言葉、博士に聞かせてあげたかったわ。まあ、わいは研究者というよりエンジニアやけど。
ほくほくと温まっていたマサキの心は、次の瞬間に凍ることとなった。
「何してるの?」
どうやらバトルはレッドが勝ったらしい。コトネが尋常じゃないレベルで悔しがっている。
レッドはピカチュウを抱えながらグリーンとマサキの手にあるポケモン図鑑をゆっくり交互に見ていた。二人はグリーンにポケモンを最初に教えるために闘っていたことを思い出しても、もう遅い。
「ええっと、そのう⋯⋯ちゃうねん」
「ポケモンっておもしろいな! おしえてくれてありがとなマサキ!」
ここシロガネ山やっけ? というくらいに、急激に気温が下がった気がした。
「あああちゃうねんって!! しょうがなかったんやー!」
レッドに土下座し許しを請うマサキを見たグリーンの目に、若干の失望の色が浮かんでいたことをマサキが知ることはない。
結局日が暮れて疲れて寝てしまったグリーンをオーキドが装置で逆転送し、無事元に戻らせることができた。
何も覚えていないグリーンは暫くヒビキに電話で、人間もポケモンの一つなんじゃないかとセンチメンタルに語りかけていたとかなんとか。
***
【コトネ編】
まさかのバトルしている間にグリーンさんの初めてをマサキさんに取られていたことに気付いた私は最終手段に出た。そう、レポートだ。
今まで誰にも話したことはなかったけど、私は最後にレポートを書いた日に遡ることができる。どういう理屈かは解らない。
最後のレポートは二日前。普段なら戻るのが面倒くさくなる期間だが、今回はむしろラッキーだ。この二日間で──
「レッドさんを瞬殺できるパーティを作り上げる!!」
私はさっそく最強のメンバーを集め四天王巡りへと出かけた。ワタルさんに頼むからもう来ないでくれと言われていたような気がするが、ま、あれから大分時が経っているので時効に違いない。駄目だったらジムリーダーを片っ端から呼び出すだけだ。
そして当日。
「レッドさん、今日こそ決着をつける日が来たみたいですね」
「本気の僕に勝てるとでも?」
ふふ、そう言っていられるのも今の内ですよ。
取り合えず勝負が長引いてしまうとマサキさんに先を越されてしまうので、私はレッドさんに一つ提案した。
「あ、回復アイテムは無しでいきましょう。キリがないので」
「え? ああ、いいよ」
研究所の前でバトルのゴングが鳴り響いた。実際はポケスロンで使うような笛だけど。
「行け! ピカチュウ!」
「頑張ってグラードン!!」
前回と同様ピカチュウが最初に出てきた。良かった。
グラードンは正直マサラタウンで戦っていいポケモンじゃないけど何とかなるだろう。
「伝説のポケモンやんけ!!」
「うわーでけぇ! なーあれもポケモン?」
レッドさんもさすがに驚いているようだ。
「どうやら本気みたいだね」
「まあ私が持ってる伝説のポケモンこの一匹だけなんですけどね⋯⋯ヒビキくんが他は全部捕まえちゃったから⋯⋯」
コガネシティで散々増強アイテムも買った私に死角はない。
全てレッドさんが繰り出すポケモンよりきっちり相性の良いポケモンを繰り出して圧勝して見せた。
レッドさんは悔しそうにしながらポケモンの手当てをしている。
「君、まさか──」
「なんですか?」
「いやなんでもない。次は負けない」
次もなにも、このバトルに勝つことが重要なのだ。
小さいグリーンさんは椅子から飛び降りてこちらに駆け寄ってきてくれた。
「あんたつえーな!」
「えへへー。⋯⋯あんたじゃなくて、おねえちゃんって呼んでね?」
「お、おねえちゃんつよいな⋯⋯?」
笑顔で優しく正したのに怖がられた気がする。なんでだろう?
約束通りいろんなポケモンを見せて教えてあげた。
グリーンさんの手もちってごついの多いから、かっこいいポケモン中心だ。
カイオーガの背に恐る恐る乗ってみたり、オーダイルに担がれてはしゃいだり、メタグロスをぺたぺた触って感動しているグリーンさんは超新鮮で天使のようだった。ああ、子どものキラキラした目っていいなぁ。
日が暮れてきたのでグリーンさん家のリビングでお茶をして過ごした。
シェイミーを抱きながらソファに寝っ転がったグリーンさんが私に尋ねる。
「おねえちゃんみたいなひとってなんてゆーの?」
私みたいな人ってどういう意味だろう?
「え? えっとー、美女? なーんて、えへへ」
よく解らないのでちょっとふざけてみた。
「び、じょ? ふーん⋯⋯オレしょうらいおねえちゃんみたいなビジョになる!」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯
⋯⋯ん?
「えええええっ!? いや、待って!?」
いやまあ顔は整ってますが! そんな、私の魅力のせいでグリーンさん変な世界に目覚めてしまった? マサキさんとオーキド博士が爆笑している。レッドさんはというと、手で口を覆ってうつむき肩を震わせていた。気分でも悪いんだろうか。
「オレがビジョになったらバトルしてくれよな!」
「えと、うん──?」
約束してしまった。どうしよう、グリーンさんが女装して私の目の前に現れたら。愛らしくはないだろうが妙に様になってそうで怖い。
オレはせかいでイチばんのビジョになるーと、すごいことを言いながらグリーンさんは眠ってしまった。
「いやーコトネちゃんええなぁ。おもろいもん見せてもろたわ」
「わしの孫こんなアホじゃったかのぅ」
「ごめんなさい⋯⋯私のせいでグリーンさん新たな扉を⋯⋯」
「いや、グリーンが尋ねてたのは僕たちの職業のことだと思うよ」
「へ?」
職業? つまり、グリーンさんが聴きたかったのは──
「ポケモントレーナー、が正解だね。あの問いには」
顔がどんどん熱くなっていくのを感じた。
「美女⋯⋯美女って⋯⋯」
「もう! 忘れて! ください!!」
またひと笑いが起きてから、マサキさんが眠ったグリーンさんを転送装置に乗せ、無事元に戻ることができた。
元に戻ったグリーンは暫く美女ネタで揶揄われ困惑していたとかなんとか。
***
【レッド編】
コトネとグリーンの初めてを奪い合ってバトルしようとしたら瞬殺されたので僕は最終手段に出た。そう、レポートだ。
今まで誰にも話したことはなかったけど、僕は最後にレポートを書いた日に遡ることができる。どういう理屈かは解らない。
何かイベントがある前は必ずレポートを書いていた。今回もオーキドの研究所へ向かう前に記録していたのだ。恐らくコトネも僕と同じく過去に遡ることができるに違いない。でなければあそこまで手札を先読みなんてできないだろう。
僕はポケモンセンターに寄ってマサキのパソコンに接続し、昔から一緒に戦ってきた最強のメンバーを引き取った。実をいうと、そもそも前回研究所へ行くときはバトルをするつもりなんてなかったから、ご無沙汰になってしまったポケモンたちを連れだしていたのだ。ピカチュウはグリーンに会いたがっている様子だったので例外だったが。ご無沙汰なポケモン達とは後日遊んでやることにしよう。今日はバトルに勝つことが最優先だ。
そして現在。
「レッドさん、今日こそ決着をつける日が来たみたいですね」
「本気の僕に勝てるとでも?」
「あ、回復アイテムは無しでいきましょう。キリがないので」
「いいよ。元からそのつもり」
僕があっさり快諾したのを聞いて、コトネは一瞬きょとんとなったがすぐに気を取り直しバトルを始めた。
「行け! カメックス!」
「頑張ってグラードン!! ──あれっ」
コトネはびっくりしている。繰り出されたポケモンが予想と違ったのだろう。
外野は伝説のポケモンの登場に騒ぎ立てていた。というかこの子はマサラタウンを破壊する気だろうか。僕もあまり人のことは言えないが、さすがに自分の故郷がサラチタウンに改名されるのは避けたいところだ。
作戦を練りに練りまくった相手を崩すのはたやすい。
僕はコトネに圧勝してみせた。コトネは悔しそうにしながらポケモンの手当てをしている。
「なんでぇ? レッドさん、まさか──」
「実力だよ」
「うわぁ。次は負けません。次は」
速攻でレポートを書けばこっちのものだ。
グリーンが椅子から飛び降りてこちらに駆け寄ってきた。
「にーちゃんやるじゃねぇか!」
「まあね」
約束通りいろんなポケモンを見せてあげた。
グリーンはああ見えて可愛いもの好きだ。だからマサキに頼んで可愛いポケモンたちを中心に集めた。
ピカチュウのほっぺをつついてびっくりしたり、ゼニガメと水遊びしたりして遊んでいるグリーンを見てると、どこか懐かしいような気持ちと、こいつこんなんだったっけという違和感でぐるぐるする。まあそりゃあ、見知らぬ相手と幼馴染相手じゃ態度も変わるだろうが。
「このゼニガメが、さっきのカメックスになんの?」
「うん。ただ進化は二段階あって、途中にカメールってポケモンになるよ」
「へー。どんなん?」
「それは五年後のお楽しみ」
「ケチ! そんなんじゃモテねーぞ!」
教えるのは楽しいがあんまり知識をつけすぎて未来が変わっても嫌だ──そもそもどういう仕組みなのかよく解らないが──スタートはできるだけ同じであって欲しいので、念のため詳しいことは教えてやらない。ただ腹が立ったのでデコピンしてやった。グリーンは大げさに痛がった。
グリーンが遊び疲れたようなのでオーキド家のリビングでお茶をした。
カビゴンに乗っかりながらグリーンは僕に尋ねる。
「にーちゃんみたいなひとってなんてゆーの?」
「え? ──ああ、ポケモントレーナーだよ」
「ふーん⋯⋯オレしょうらいにーちゃんみたいなポケモントレーナーになる! そしたら、オレともバトルしてくれよ」
「受けて立つ」
へへ、と満足そうに笑って、グリーンはそのままうとうとと眠りについた。
オーキドが装置まで抱えて逆転送すると、数分後にマサキのポケギアに電話がかかってきた。
「もしもし? グリーンくん?」
『マサキ! 今どこ? 俺どうなったのか全く記憶ないんだけど⋯⋯』
「マサラタウンにおるで。転送には成功してんけど、ちょっと色々あってな。さっきマサラタウンから君をそっちに逆転送したとこや。なんか身体に違和感とかあらへんか?」
『成功したのか!? まじで!? すげーじゃねぇか!! 身体は平気だけど⋯⋯え、色々ってなんだよ。怖い。なんか日が暮れてるし』
「まぁうん。色々や。そういえばレッドが久々にこっち来とるでー代わるわー」
『おい!!』
言い訳が何も思いつかなかったマサキは僕に全て丸投げした。仕方ないので取り合えずポケギアを受け取る。
「もしもし」
『お! マジでレッドじゃん。ちょうどいいや。俺さ、なんか無性に闘いたくてうずうずしてんだよ。道場のとこでバトルしようぜ』
「いいよ。約束したし」
『ん? そうだっけ? じゃ、待ってるからな! 絶対来いよ!』
そして通話は切れた。
正直なところ僕も何て誤魔化そうか素直に言ってしまおうか悩んでいたので、全く触れてこなかったのは助かった。でももう少し気にするべきだと思う。さすが、姉に勝手に電話番号ばらまかれて知らないやつから掛かってきても動じない男だ。
「グリーンにバトル誘われたから行ってきます」
「こんな時間に? 全く、仕方ないやつじゃの」
すまんが付き合ってやってくれとオーキドは苦笑いした。
その日の夜、道場からは楽し気にバトルしている声が聞こえてきたとかなんとか。
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