主人公交代

俺はこの世界のゲームの主人公だ。そう認識したのは初めて世界がループした瞬間だった。性別も自由に選べるし、名前も自由だ。


今回の性別は男で、名前はグリーンにした。もう何度もループしているので最近はデフォルト名ばかりつけている。


ポケモンも自分が最初に選ぶかライバルに譲るか決められる。ライバル戦を楽に攻略したい俺は毎回ライバルに先に決めさせているので、今回も違わずライバルが選んだ後に相性の良いポケモンを選んだ。


もはやマップの位置もポケモンの出現場所も分かりきっているので図鑑埋めは楽勝だし、ライバルとの戦闘も好きなタイミングで起こせるから万端の準備で挑める。負けたって少し前に戻ればいいだけだ。


だが流石にそれを繰り返していると飽きる。だから今回、俺は縛りプレイを自分に義務付けた。プレイ開始から一度もレポートを書かない。絶対にやり直さずに最後までプレイすることにしたのだ。


何度も繰り返しているせいで旅をするのもポケモンを育てるのも惰性的になっているから、こういったことで変化を付けたかった。



***


育てていたラッタが、死んでしまった。


おかしい。今までこんなこと無かった。何をしたって死ぬことなんて無いはずだ。そういう風に出来ているんだから。


さすがにショックで、やり直そうと思った。一度もレポートを書いていないので最初からになってしまうが仕方がない。新たなルートだとしても最悪だ。例え何度もこの世界を繰り返すことに飽きていても、悲劇を楽しむ趣味は俺にはない。だからリセットしようとした。


──あれ?


リセットって、どうやるんだ? ゲームみたいにコントローラーも無いのに。今までどうやってきたんだっけ?


何も思い出せなかった。

嫌な予感がした。



***


するすると、まるで用意されていたかのように台詞が滑り出してくる。


祖父がリーグにやってきた。

今までの世界では俺に称賛の言葉をくれた祖父がライバルを褒め称えている。


ゲームオーバー? バッドエンド?

その割には未だにこの世界は続いている。


ポケモンとの愛情と信頼が足りていないトレーナー。主人公には程遠い。──まさか。



俺は主人公から落とされた?



これからは目の前のライバルが主人公で、俺が主人公のライバルになるのか? そんな馬鹿な! じゃあこれから俺は一生何度も何度も敗北して、もしかしたら何度も何度もポケモンの死を味わうのか? 決められた円状のレールの上を、外れることも加減速することも出来ずに走り続けるNPCに成り下がるのか。



ごめんだ、そんな世界なんて。そんな──




***


僕はこの世界のゲームの主人公だ。

そう認識したのは、初めて世界がループした瞬間だった。


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