酒に呑まれる君を知る

ウォッカを呷りながらグリーンと過ごしていた夜。

あんなに騒いでいたグリーンが大人しくなった。頬は紅潮して目がとろんとしている。声を掛けても反応がないので、もしや不味い状態なのではと不安になり、隣までいって膝をつき肩を叩こうとした。


「グリー⋯⋯ンっ!?」


どんっと、グリーンが胸に突進してきた。座ることすらままならないのか、といよいよ焦って肩を掴み様子を伺う。するとグリーンは実に不満そうに口を尖らせて、僕の服をぎゅっと握った。


「おれが抱きついたら抱きしめかえせよ」

「あ、はい」


文句を言われたので取り敢えず抱きしめ返した。グリーンは胸に頭を擦り寄せて、へへ、と笑った。どういう状況だ⋯⋯!? 突然のデレ期に動揺を隠せない。いつもなら抱きしめようものなら全力で暴れるのに。「ベタベタすんのは趣味じゃねぇ」とか言ってくるのに!


グリーンは僕にがっちりと抱きついたまま、顔だけ上に向けた。間近でへにゃりと幸せそうに微笑う彼に一気に理性が飛びそうだ。特に今日の僕は人生初めてのほろ酔いを体験しているのに。これはもう、始めていいんだろうか。グリーンは少し潔癖症で、風呂を入らずにするのは本気で嫌がる。だから、今日は風呂に入る前にグリーンが出来上がってしまったから、諦めていた。特に男同士だと、風呂も入らず準備せず始めるのはなかなか不味いこともあるわけで。僕はあまり気にしないけど、グリーンに嫌われるのは厭だ。どうしよう。


「れっど⋯⋯」

「はい」

「ん」


僕の胸ぐらを引き寄せて、目を瞑って何かを待つ態勢に入る。いや何を待っているのか解らないほど僕も初心ではない。でも咄嗟に理解できなかったのは仕方ないことだと解ってほしい。グリーンのキス待ちなんて初めてみたんだから!


だいたい僕が不意をつくか多少強引に及ぶかでしかキスをしたことがないのに、まさか彼から、そんな。心臓のバクバクする音を聞きながら僕が何も出来ずにいると、彼は目を開いて、七月の森林のように澄んだ瞳を潤ませていった。


溢れた雫が彼の頬を辿った頃に、ようやく僕はグリーンが泣いていることに気づいてぎょっとする。

「あ、ど、どうしたの」

「なんれしてくんねーの?」

呂律の回っていない言葉が聞き取れなくて黙っていると、ぽろぽろと涙を流していく。行為以外で初めてみた涙に頭が真っ白になった。


「やっぱイヤなんら⋯⋯ばかれっど。イヤならそう言やいーんだ。そしたらおれだって⋯⋯おれだって⋯⋯!」

「い、嫌じゃない嫌じゃない!!」

平素からは想像もつかない程の情緒不安定さに慌てて僕は否定する。胸に押し付けられた彼の頭を撫でて、顔を上げさせてキスをする。グリーンは僕の背中と頭に手を回し自ら深く舌を絡ませた。


熱に浮かされそうではあるが、僕はようやく頭の混乱が落ち着いた。そうか、こいつは酒に酔うとこうなるのか。今までの酔いは浅い方だったんだ。急に何かに取り憑かれたわけじゃないんだ。そういうことなら、甘えてくる彼を今日は存分に堪能しようじゃないか。


口を離すと、グリーンは僕の膝に乗り上げて、首を傾げて目を細めた。

「へへー⋯⋯れっどはおれにぞっこんだなぁ?」

勝ったみたいに得意げに笑うので少し気に食わなかったが、もう僕の負けでいいやと思った。もっかい、と彼が強請るので、もう一度軽めにキスをすると、グリーンは少し身体を離して片手で自分のシャツのボタンをプチプチと外した。


「きょうのオレはキゲンいーから、いくらでも喰っていいぜ」

そして僕の耳元に口を寄せて囁いた。


ほしーだろ?


──ああもう、完敗だ。

僕はグリーンの挑発を真っ向から受けるように首元へと噛み付いた。



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