イチャつきたい
「よーしポケセン行くか! 二人でな!!」
シロガネ山にグリーンが遊びに来たのでいつものようにバトルしたレッドは、接戦の末なんとか勝利をもぎ取ることが出来た。
それなのに負けたはずのグリーンがやたらと嬉しそうにそんなことを言うので、何だかこちらが負けたみたいで納得がいかない。
「へへん。お前の手持ち一匹までに減らしてやったぜ」
「勝ったのは僕だ」
「バーカ。もうお前には勝たせねーよ」
そう。少し前まではバトルした後、グリーンだけが悔しそうにポケセンに向かっていたのだが、ここ最近は力をつけ始め二人仲良くポケセンへ向かうことが増え始めていた。
自信ありげに鼻を鳴らしたグリーンは、思い出したようにジト目でレッドを睨めつける。
「お前オレに黙って勝手にシロガネ山でガンガン鍛えやがってさ。三年ぶりにバトルして瞬殺された時はかなりショックだったけど、次に目の前が真っ暗になるのはお前の方だからな!」
「⋯⋯⋯⋯」
よっぽど久々のバトルで完膚なきまでに破れたのが堪えたらしい。まさか数ヶ月でここまで力をつけるとは思わなかった。ヒビキを通して聞いた話だが、グリーンはレッドが居なくなってからというもの、張り合う相手がおらず滅多に人の来ないジムにも立っていなければならずで、目標もなくくすぶっていたそうだ。
自分の存在がグリーンを強くする、という事実自体は嬉しいのだが、レッドもグリーンに負けるのは絶対に嫌だった。これからまたポケモンをどう鍛えていくかな、と思案する。
最後に残ったリザードンを撫でているレッドを見ながら、グリーンは頭の後ろで手を組んだ。
「てかさ、強くなりたい気持ちは分かるけど、あんまり突き詰めすぎるとその内誰と戦っても楽しくなくなるんじゃねーの」
「グリーンとバトルするのはいつだって楽しい」
思ったことを素直に言えば、グリーンは一瞬固まってから慌てて口を開く。
「⋯⋯そ、そーかよ。まあライバルってのは力の差が拮抗してる相手をいうからな。お前がどんなに強くなったって、オレが常に楽しませてやるよ!」
照れたようにそっぽを向きながら、口説いているんだか宣戦布告なんだか分からないことを宣った。
「とにかく! うかうかしてたらあっという間に追い抜いちまうからな!」
──とまあ、傍から見れば二人は実に仲の良い親友でライバルだが、実は数ヶ月前から恋人としても付き合っている。
付き合っているのに、まるで友人の延長線のようで、なかなか向こうから甘い雰囲気を出してくれないのが最近のレッドの不満だったりする。既に夜は何度か過ごしているのに、何故普段はこうなってしまうのか。
グリーンが来た時は、滅多に人が来ないシロガネ山でイチャつこうと思っていたのに、いつの間にか全く恋人の雰囲気になっていないことに気づいたレッドは自分から動くことにした。リザードンをボールの中へと戻す。
びしっとこちらに向けられた指を手で包んだあと、慌てふためいたグリーンを暖めるように抱きしめる。グリーン曰く、肌が冷たすぎて逆に寒くなるらしいが。ドキドキと少し早い鼓動が伝わってきた。
「は、離せ」
「なんで?」
「ベタベタすんの趣味じゃねぇっつったじゃん」
「でも僕はこうしたい。──嫌?」
「い、嫌とは言ってねぇけど」
「好き」
「⋯⋯⋯⋯恥ずかしいやつ」
「君は?」
「⋯⋯⋯⋯オレも、好──」
プルルル──
その時グリーンのポケットからポケギアの着信音が鳴った。
「あ、わり」
グリーンは咄嗟にレッドを押しのけポケギアを取り出す。折角甘い雰囲気になりそうだったのに邪魔されたレッドはポケギアを思い切り睨んだ。
「あっヒビキからだ」
しかもグリーンは切るどころか画面に表示された名前を見て嬉しそうに電話に出るのでイライラは募る一方だ。
「もしもし。ああ、心配すんな。オレは元気でやってるよ。⋯⋯悪いけど日曜の夜しか身体が空かねーんだ、だから⋯⋯え? ああいいぜ! じゃあ今週日曜夜にヤマブキ道場な! 待ってるぜー!」
信じられないと言った目で見つめるレッドの視線に、グリーンは通話を切ったあとにようやく気づいた。
「⋯⋯なんだよ」
「目の前で堂々と浮気されるとは思わなかった」
「浮気じゃねーよ! ヒビキ相手にんなわけねーだろ。バトルするだけだって」
「日曜の夜に?⋯⋯夜に!? 前に僕が誘ったら断ったくせに。ヒビキのために空けてたのか⋯⋯」
「や、だってお前と過ごしたら次の日に支障きたすだろ。一応オレ仕事してんだよ⋯⋯何? 嫉妬してんの?」
「嫉妬してる」
ニヤニヤしながら聞いてくるので食い気味に言ってやると、グリーンはその勢いに少しだけ怯んだ。
「素直か。少しは焦ったり否定してみたりしろよ」
「君って本当に僕のこと好き?」
「そりゃあ──」
不機嫌を隠そうともしないレッドにグリーンはため息を吐き、逡巡した後に胸ぐらを掴んで引き寄せ軽くキスをした。
「ほら、これでちょっとは機嫌なお──んんっ!?」
グリーンが直ぐに身体を引いて目を逸らしながら諭そうとしてきたので、思い切り身体を掴んで噛み付くようにキスをする。
「んんっ!! ん!──ぷはっ、お前なっ、こんな場所で舌入れてくんのやめろよ!!」
「誰も見てないし」
誰も居なくても恥ずかしがるのか、と少し呆れた眼差しを向けるとグリーンは、そういう問題じゃなくて、と耳まで赤くしながらレッドの腕を強めに掴んだ。
「その、し、シたくなったらどうしてくれんだよ⋯⋯」
「え? じゃあシよ」
「こんな寒いとこでやったら死ぬわ!」
「洞窟は意外とあったかいよ」
「身体痛くなるからやだ」
「じゃあポケセン行ったら君の家に行こ」
「⋯⋯別にいいけど」
そして二人はあなぬけの紐で下山した。お互い空を飛ぶを覚えているポケモンが居なかったためだ。利便性よりもバトルの有利さを優先していた。
山の入口にはコトネがいた。そして何故か現れた二人を見て慌てふためいた。
グリーンはそんなコトネに声をかける。
「あ、この前ジムに挑戦しに来たコトネじゃねぇか。どうしたんだよ?」
「グリーンさん! ええと、シロガネ山の入山許可もらったんで、登ろうかなーと思ったんですけど、忘れ物思い出して⋯⋯! あっそちらはレッドさんですよね!? ヒビキくんから話は聞いてます。今度相手してください! そ、それじゃあ私は急いでるので!!」
そう言って走って去っていってしまった。
「なんだあいつ」
グリーンは知らない。実はコトネはレッドに挑もうとさっきまで頂上にいたことに。いつ声をかけようかと迷っているところで二人がキスし始めたので驚いて慌ててあなぬけの紐で逃げてきたところだったことに。
レッドは察したが、教えれば二度とシロガネ山で恋人っぽいことが出来なくなることが目に見えているので黙っていることにした。
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