デザートが食べたい

グリーンは家の鍵を開けて中に入り、後ろから着いてきたレッドに鍵を閉めるように言おうとして振り返った。

しかし振り返った瞬間レッドが倒れ込んできて、バランスが上手く取れずにそのまま玄関前の廊下で押し倒されてしまう。

首元を掠めるレッドの吐息にぞわりとした。


「⋯⋯食べたい」

「ちょっ、れ、レッド!! こんなとこで盛ってんじゃねーって! せめてベッドで──」


慌てて騒ぐとレッドは、そうじゃなくて、と死にそうな声を出した。


「⋯⋯お腹すいた」

「⋯⋯は?」

「生活空間に入った瞬間なんか、ここ最近何も食べてなかったこと思い出して⋯⋯」


グリーンは呆気にとられた後、赤面して思い切りレッドを殴った。


「普通に腹減ってただけかよ!!」




ずるずるとレッドをリビングまで引きずったグリーンは、黒のエプロンを身に着けて「うしっ」と気合を入れた。


「お前さあ、飯くらいちゃんと食え」

「人間ちょっとくらい食べなくても平気──」

「平気じゃねぇ! 普通人間は食べないと死ぬんだよ! しゃーねぇからオレが今から作ってやるけど、リクエストは受け付けないからなっ」


レッドのあまりの無頓着ぶりに呆れてため息をつきながらキッチンへ立った。


「グリーンて料理できんの」

「まあな。お前と違って生活力があるからな。たまーに姉ちゃ⋯⋯姉貴にも作ってんだよ。楽させてやりたくてさ。オレのこだわりチャーハン食わしてやるよ」

「わー楽しみだなー」

「⋯⋯そうやって棒読みしてられんのも今のうちだぜ」


トントンとどこか懐かしいような料理の音を聞きながら、レッドはソファーに寝転がりながら適当に雑誌を読んで待った。グリーンがフライパンを返しながら、まるで彼のテーマソングにでもなりそうな明るくてかっこつけたメロディを口ずさんでいる。


旅をしていた頃じゃ想像できないような幸せな未来だ。



しばらくしてグリーンがチャーハンを盛った二人分の皿を持ってきたので、レッドは起き上がってスプーンを手にとった。


「いただきます」

「へへ、これがオレのこだわり黄金チャーハンだ。見ろよこのパラパラっぷり! これを生み出すのにかなり試行錯誤したんだぜ。味も飽きが来ないようにいろいろ工夫しててさぁ」

「ごちそうさまでした」

「⋯⋯⋯⋯もっと味わって食えよバカレッド!!」


レッドは一瞬にして平らげていた。


「すごく美味しかった。天才的おいしさ」

「へ? ⋯⋯だ、だろ? そうだろ!? そんなに言うならまた今度作ってやるよ」


あまりのちょろさにレッドは若干心配になったが、美味しかったというのは本心だったので気にしないことにした。


グリーンが食べ終わり、台所に戻って皿を洗う。

そんなグリーンをレッドは後ろから抱きしめた。


「レッド邪魔。皿なんてすぐ洗い終わるから待っとけ」

「デザート」

「ねーよそんなもん」

「君が食べたい」

「⋯⋯オレは食べ物じゃねーぞ」

「そういう意味じゃない」


するりと太ももを撫であげると、びくりとしたグリーンに肘鉄を食らわされる。

もろに鳩尾に入りレッドは呻いた。


「だ、だから待っとけって! お前はがさつだから気にしないんだろうけど、その、こっちにも色々準備があるんだよ! 少なくとも風呂入るまでは絶対にしねぇからな!」

「準備手伝おうか」

「ぜっったいに嫌だ! 途中で入ってきやがったら絶交だからな」


そう言ってグリーンは皿洗いを開始した。

つれない後ろ姿を暫く見つめたあと、レッドは諦めてソファーに戻ろうとした。その時。


「⋯⋯オレだって我慢してんだよ」


小さくそんなことを言って、髪から覗く耳を赤くするものだからたまらない。



──待て、というなら煽らないで欲しい。



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