コーヒーとマシュマロ
「グリーンくん飲みたいもんある?」
「コーヒー」
家にグリーンが遊びに来たので笑顔で迎え飲み物の希望を聞くと、意外と大人な答えが返ってきてマサキは少し驚いた。大体いつもオレンジュースかサイコソーダを飲みたがるのであらかじめ用意していたのだが、予想は外れたようだ。好み変わってもうたんかな、と思いつつも自分がいつも飲んでいるものと同じコーヒーを淹れた。
「はい、コーヒー飲みたがるなんて珍しいやん」
「俺はもう大人だからな!」
十五歳なんてマサキからすればまだまだ子どものようなものだが、本人は背伸びをしたい年頃らしい。一口飲んだグリーンは一瞬顔をしかめてから、すぐにいつもの笑顔に戻して、コクが良いとか、飲み口が良いとか、聞きかじったような感想を言ってくる。本人は隠しているつもりだろうが無理しているのは一目瞭然だった。見ていて微笑ましくはあるが、折角の楽しい時間を苦味に耐える時間にするのは少し可哀想だ。
マサキは棚から、昨日人から貰ったマシュマロを取り出して持ってきた。
「あんな、これ、グリーンくんだけに教えんねんけどな」
「ん?」
「実はわいめっちゃ甘党やねん」
「──え、マジで?」
「こう見えて頭使う仕事しとるからな。甘いもん欲しなんねん」
少し驚いているグリーンの前で、一つ二つとコーヒーにマシュマロを入れていく。グリーンが沢山入れやすいように、カップに埋まるぐらいに敷き詰める。
「コーヒーにマシュマロ入れるとめっちゃ美味いねんで! グリーンくんも試してみぃひん? 共有できる相手おらんくて、わい寂しいねん」
そう言いつつマシュマロの袋をグリーンの方へ近づけた。
「まあ、マサキがそう言うなら、別にいいけど」
グリーンは少しそわそわとしながらマシュマロを入れていく。意外と甘党なのかもしれない。「溶けるまでちょっと待っとってな」とすぐに飲もうとしたグリーンを制して、昔自分が伝説のポケモンを追いかけた時の話をしながらマシュマロが溶けていくのを待つ。
「──そんで目が覚めたら何故か一人で横たわっとってん。あれ絶対ファイヤーや! 次は意識しっかり持って絶対捕まえたるー! て思っとるうちにレッドに先越されてもうてたわ」
「うん⋯⋯気絶ってそうぽんぽんして良いもんじゃないと思うぜ。昔の話とはいえ一度病院行った方がいいんじゃねーか⋯⋯?」
「なんやー笑いどころやのに」
カップをちらりと見るとマシュマロが大分溶けていたので、マサキはグリーンに飲むよう促した。
「どない?」
「⋯⋯美味い。たまにはこういうのもいいな! たまにはな!」
先程と比べてごくごくと飲んでいく。気に入ってくれたようだ。
マサキも自分のマシュマロで埋まったコーヒーを一口飲んだ。
──あっま!!
さすがに入れすぎたようで今度はマサキが顔に出さないよう苦行に耐える番になってしまった。本当は甘党でも何でもないのだ。でも「マサキ泡ついてるぜ」と自分も泡をつけながら笑うグリーンを見て、まぁたまにはええか、と思い直す。
マシュマロに気がついて寄ってきたイーブイたちにも分けてやりながら、どこか穏やかな午後を過ごしたのだった。
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