気づかなければ
「なあ、マサキは転送マシンを開発してたんだよな?」
「ん?せやけど⋯⋯どないしたん?」
「で、ミスってポケモンと合体しちまったんだよな」
「せ、せやな。何で知っとるん?グリーンくんには知られたなかったなぁ。恥ずかしいわ」
「そこにレッドが来て分離システム起動してもらったんだって?」
「レッドは恩人やな。まあ、一度断られてめっちゃヨイショしまくって助けてもろたんやけど」
「マサキ。もう一度聞く。転送マシンを開発してたんだよな?ポケモンを遠くに運ぶための機械を発明しようとしてたんだよな?」
「せやで?さっきからどないしたん。なんや話が見えへんわ」
「なんで転送マシンの開発で、分離システムを作ってたんだ?」
「分離システムは転送の過程で使うもんや。電子化して遠くに送るためやな」
「預かりシステム含め、ポケモンを送るのはデータ化方式だろ。ポケモンの特性を利用したやつ。わざわざ転送マシンだけやり方変えるなんてこと、マサキならしないだろ。作った本人なんだから」
「ああ、よう知っとるなぁ。言うても分からんと思って適当な説明にしてもうたけど、そこまで分かっとるならちゃんと説明せなあかんな。分離システムは──もちろん合体してもうた時用や。あらかじめリスク管理はしておかな」
「転送マシンの開発で、なんで事故で合体するって発想にいきつく?」
「そういや、この間おいしいお菓子もろたんやけど、グリーンくんも食べるか?」
「はぐらかすなよ。教えてくれ。マサキはあの時、本当は何を作ってたんだ?」
「転送マシンやって。せや、お菓子に合う紅茶もあんねん。淹れたるわ」
「本当は、合体が目的の機械だったんじゃないか? ポケモン同士を合体させるのか、人間をポケモン並みに強くしようとしたのか解らないけど──」
「あはは、グリーンくん面白いこと云うなあ。何のためにそんなもん作んねん」
「それは──」
「マサキが、ロケット団と、繋がってるから」
「わいが? ロケット団と? あかんで証拠もなしにそないなこと言うたら」
「あの時マサキの家の近くにはロケット団がいた」
「ええ? 物騒やなぁ。何事もなくてよかったわ」
「ロケット団の目的は最強の軍団を作り上げることだ。マサキが作ってたのは、そのための機械なんじゃないのか」
「一回失敗しただけでそない疑われるなんて思わんかったわ。せやから、証拠がないやろ?」
「証拠なら、ある」
「⋯⋯⋯⋯」
「マサキの家を出入りするロケット団の写真がここに──」
マサキが振り向いた。
グリーンの頭に衝撃が走る。
何かで殴られたか。
どさり、とその場に倒れた。
「なんで気づいてまうん?」
気づかなければ、何も変わらずにいられたのに。
薄れゆく視界には、マサキの足が映っていた。
そしてそのままグリーンは意識を失った。
「ああ──写真て、ハッタリやったんか。そのままシラを切り通すべきやったなぁ。もう遅いけど」
***
その日レッドはマサキのところに訪れていた。
マサキの家では沢山のイーブイが遊んでいた。その内の一匹だけ、おとなしく隅の方で丸まっていた。何だか気にかかってしまって、近づいて頭を撫でてみる。するとびくりと身体を震わせたイーブイは、こちらを見た瞬間に飛びかかってきた。
「わっ──!?」
咄嗟に胸に受け止めると、激しく暴れながらブイブイと鳴き始める。必死に何かを訴えるように。どうしたらいいのか判らずそのままでいると、騒ぎに気づいたマサキがやってきた。
「どないしたん?」
「この子が急に──」
マサキはレッドの腕で暴れるイーブイを抱えると、すまんなぁと申し訳無さそうに笑った。
「このイーブイは最近人から引き取ったばっかでな。まだ警戒しとるみたいで、不安定なんや」
「あ、僕が触っちゃったからかも」
「暫くしたら落ち着く思うから、気にせんとってな」
イーブイはマサキに抱かれてからは黙り込んで、それでも少し抵抗しているようだった。レッドにはどうすることもできないので、そのイーブイにごめんねと声をかけてから、マサキにボックスの相談をした。
──そういえば、最近グリーンに会ってないな。
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