00-救済の代償
苦しみから生まれた執着も恋心も、ともに溶けて消えてしまったけれど。
***
チャンピオン戦でグリーンに勝った後、僕はシロガネ山に篭っていた。
行き先は誰にも告げなかったのに、何故だかグリーンにはすぐに探し当てられてしまった。
たまにふらっと来たかと思えば、食料やら服やら、何かと世話を焼いて帰っていく。バトルをするときも多い。一度だけ下山を勧められたが、黙って首を振ると、それ切りもう何も言わなくなった。
こんな日常が、何故だかひどく稀有なように感じる。
三年経ったある日、僕は時々ある夢を見るようになった。
何もない白い空間に彼が横たわっていて、僕の上着を背中に笑いかけている。
僕は涙を零してそんな彼を見下ろしている。
そんな可笑しな情景に僕は戸惑って、でもそれと同時に、救われた気がした。
どうしてそう思うのか解らないけど、グリーンが暗闇から救ってくれた気がした。
「アローラでポケモン捕まえたらバトルしようぜ! 絶対負けねぇ」
「やれるもんなら」
太陽の下で、君が無邪気に笑うから、沸き上がった名前の知らない感情なんて忘れて、僕も笑う。
モノクロの世界から抜け出して、鮮やかな南国の地へ。
そんな───
僕にとってはごくごく日常の、ありふれた幸せな日。
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