EPILOGUE
グリーンが目を覚ますと、突き抜けるような青空が最初に目に入った。そして瑞々しく茂る緑。近くで流れる川の音。起き上がれば大きな岩肌──いや、山だ。
シロガネ山の入り口だった。
──俺、なんでここに居るんだっけ?
ぼやける思考を必死に働かせて、グリーンは記憶を巡らせる。
──ああ、そうだ。"ヒビキ"を探しに来たんだった。
どうして気絶していたのかは解らないが、ここへ来た目的をようやく思い出すことが出来た。
そう、ヒビキがシロガネ山へ向かってから一週間近く音沙汰が無かったのだ。旅をしている少年だし別段連絡が無いのはおかしいことでは無いが、電話を掛けても一向に出ないので心配していた。そんな折り、三日ほど前にシロガネ山に妙な噂が出回ったのだ。
なんでも、シロガネ山を登ろうとした者は、何度足を踏み入れても気がつけば入り口に戻っているらしい。
ヒビキと何か関係があるのでは──と不安になり、こうしてグリーン自らシロガネ山に出向いたという訳だ。シロガネ山にはレッドもいるし。
頂上で佇んで、振り返って気がついたように笑みを浮かべるその姿を思い出し、ぶんぶんとかぶりを振る。
別にあいつのことは心配してないけど!
「とりあえず、入ってみるか」
グリーンはシロガネ山に足を踏み入れた。
少し進んだ先に、土砂崩れが起こっていた。それを見たグリーンは血相を変える。
「ヒビキ!」
ヒビキは下敷きになっていた。慌ててドサイドンとカイリキーを出し、土砂を慎重に排除していく。ヒビキの口元に手を近づけると、どうやら息はあるようだ。
「ヒビキ! 大丈夫か? おい!」
「う、うーん⋯⋯あれ、グリーン、さん⋯⋯?」
目を覚ましたヒビキにそっと胸を撫で下ろす。
「お前土砂崩れの下敷きになってたぞ。タフな身体で良かったな。それかよっぽど運がいいのか?」
「そういや、巻き込まれたような⋯⋯」
「とにかく一旦病院だな」
案外平気そうなので、ウインディの背中に乗せた。さてさっさと撤退するかと歩き出そうとしたところ、地面に何かが落ちているのを見つけた。
それは少し焦げたような跡がある、ルギアのイラストが描かれた何かのカセットだった。
「これ、お前の?」
ぐでん、とウインディに全身を預けているヒビキに尋ねると、ヒビキは首を傾げた。
「いえ、違いますけど。なんですかそれ」
「俺がもらっていいかな」
「いいんじゃないですか? 随分古そうだし、持ち主ももう探してないんじゃないかなぁ」
このカセットが何なのか皆目検討つかないが、何故だかグリーンはこれがとても大切なもののような気がした。
──家に帰って大事に保管しよう。
そう思わせる何かがそれにはあった。
結局グリーンはそのカセットを保管するどころか、常に持ち歩くようになった。ヒビキが運良く助かった場所の近くに落ちていたから、ご利益でもありそうだ、なんてのは建前で。
おかしな話だが、そうすることを誰かと約束したような気がするのだ。
そしてそれから、シロガネ山の奇妙な噂はぱったりと消えた。
END
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